2022年度卒業生謝恩会BOOK・・オタクは仲間を増やしたい(学生さんによるインタビューより)

と:学生 長:長尾教授                            長尾教授

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と:長尾先生、よろしくお願いします!今日は医学教育について一緒にお話しできたらと思っています。

 

長:よろしくお願いします!

 

と:長尾先生は「教育に全集中の呼吸器内科医」と自己紹介されていますが、正直教育が面倒になるときはないのですか?

 

長:やっぱり人を育てるには手間暇がかかりますよね。当然面倒です(笑)面倒なので、僕はブログを書いたんですよ。

 

と:ほー。どういうことですか?

 

長:学生さんや研修医が新しく回ってくる度に同じことを繰り返し繰り返し教えていたので、その内容をブログに書き始めたんです。それで本を出して、動画をバンバン作って Youtubeにアップする…ってことをしてきました。今も学生さんとやっている勉強会はほとんど収録して、あとからそれを動画編集して Youtube にあげています。で、どっかの病院へ講演に行ったら「皆さんチャンネル登録&高評価ヨロシク!」と言ってまず最初に笑いを取って。まあ別にYouTubeをそんな百回ぐらい視聴してもらっても広告収入とか何もないんですけど(笑)。

 

長:極力省エネ化するメリットに気づいたのが、そのブログを書き始めた時です。実はその時点で、もしかしたら自分はレクチャーするのが向いているんじゃないかという自覚はちょっとだけありました(笑)学生さんが感想で「すごくわかりやすい」と言ってくれていたので、「おお、そうか!(゚∀゚)」って少しずつ自信になっていたんです。やっぱり褒めてもらえると嬉しい。だから「もっと期待を超えていくぞ!」というモチベーションが最初ありました。僕自身の話をすると、そこから始まったんですよね。ポジティブなフィードバックをもらえたから、自分のモチベーションが高まってもっとやろう!もっとやろう!みたいな感じでした。

 

長:僕はあの、皆さんどう思われているか知らないですけど、本当はかなりふざけた人間なんですよ。 学生の時も全然勉強しなかったし、本もろくに読まず医者やっていたんですけど、やっぱりそれだと「ひとに教えられへんな」と気づいて。前の大学で学生さんに教え始めた時、「これどういうことですか?」って聞かれても「いや、わからんわ」って自分がなった時に初めて本を開きました。 で、勉強すると色々繋がるから面白くなってくるんですよね。例えばCOPDの診察所見で「なんで頸部にみえている気管の長さが短くなるんやろう?」と疑問に思ったことを調べたら、ちゃんと理由があるわけですね。で、見えている物事の理屈が分かるようになったら、「これオモロイな」ってなるんです。僕はご覧の通り?オタクなんです。オタクって、感動を誰かと分かち合えればすごくHappyなんですよ。自分が面白いと思っていることを早口で誰かに伝えて「ほんとだ!面白い!」って、こう目がぱちんって開いてくれたら、「そやろ~」って我が意を得たり(ニヤリ)という風なね。まあこれは全然王道のやり方ではないので、教育として正しいのかどうかも分からないですけど。

 

と:長尾先生にとっては最初から教育が一番大事だったのですか?

 

長:紆余曲折は色々ありました。当時は診療科の実働部隊が二人しかおらんかったから、もうホンマ大変で。最初は病棟に患者さん30人ぐらいいたので一人で15人ずっと見ながらそれで同時に授業をやって実習やって研修に学生さんついてきて、ほんで外来やってみたいな。もう無茶苦茶やったんですよ。だから、授業しながらでも電話がかかってきて「今から挿管してください」って途中で病棟に呼び出されるみたいな。

 

と:えー!!!

 

長:自分でも「ホンマ何してんやろ」と思ってました。そんな生活をしてたから、だから逆に教育はやっぱり片手間ではできへんなっていうのもすごく思ったんですよ。教育の専任が要るんちゃうかと。自分が集中できないんですよ。挿管しながらでも処置終わったら戻らなきゃと授業のことを考えるし、授業しながらでも患者さんのことが気になってどちらにも集中できない。

 

と:集中できないのは怖いです…

 

長:それじゃあアカンと思いました。ほんで何年か経って医局に少し人が増えてきた時に、教育専任にしてくださいって上の先生に頼みました。 そこから教育に比重をかけていくようになったんですよ。

でも、最初はポジティブなフィードバックがもらえているって分からなかったんですよ。学生さんが授業評価に「長尾の授業がおもろかった」と書いてくれているのを僕は全然知らなくて。だけど、ある年ベストティーチャー賞で1位に選ばれていた救急の教授から「実は長尾君の評価が一番だったけど、君は助教だからベストティーチャー賞を貰う資格がないんや。ほんとは君だぞ」って言われました。実際の評価は僕の知らないところで握りつぶされていたらしく…

 

と:ええ!(@_@;)

 

長:そう、僕も「ええ!(@_@;) 」って驚いて(笑)

その教授が教えてくれるまで、自分の授業が学生さんから評価されている事実を知らなかったんですよ。教授が「ほんまの1位は君のもんやねん。だから賞金半分あげるよ」って。

 

と:そこは半分なんですね笑

 

長:そう笑。ほんで、その時にはパソコン買ったんですよ。

 

と:おお、意外と金額ありますね。

 

長:そこそこありましたよ、半分でも(笑)

 

長:ちょうどそれぐらいのタイミングの時に、いろいろ書いていたブログを見てくれた出版社の方から「本出しませんか?」と電話をもらって「おお∑(゚Д゚) 」とびっくりしました。

 

と:おお!

 

長:そのうちに某医学出版社から「滋賀医大の学生さんがアンケートで先生の名前を多くあげておりますので、つきましては『〇〇がみえる』のご監修をお願いします」ってお手紙が来て。

 

と:おおお!

 

長:このブレイクスルーのおかげで一気に変化しました。たぶん2010年頃のことです。

 

と:それは長尾先生が教育を面白いと思い始めてからどのぐらい経ってるんですか?

 

長:んーと、2-3年くらいですかね?前の大学に行ったのが2005年で、もうなんかアカンと思ってブログを書き始めたのが2008年ぐらいなんですよ。その頃に教育の面白さに気づき始めて、次の年くらいに救急の教授から「ほんまは君が一番やった」と知らされたエピソードがあって…。そこからポジティブなフィードバックが続きました。本や〇ディック〇ディアの仕事をさせてもらい、「今度こそホンマモンのベストティーチャー賞貰ったどー!」みたいなことがダダダーと連続して起きました。もう人生変わりましたよね。

 

と:すごいです!笑 

 

長:ここの話はスゴいでしょう。(ドヤ)

でも「もうアカン」って時は沢山あって、ほんまに何べんもココロ折れる時に「ボキーッ」って音が聴こえました。

 

と:そんなに何べんも折れたらココロが保たないです…(笑)

 

長:折れては繋ぎ、折れては繋ぎでここまで来ました(笑)。もうアカン、と前の教授のところに「辞めさせてくれ!」って言いに行ったり…。

でもポジティブなフィードバックがあったから「嗚呼、やっててよかった」って思えました。もしもね、いま頑張ったらこの学生さんがひょっとしたら呼吸器好きになって、将来呼吸器科医になるかもしれないですし。まあそんなに上手いこと人は増えないですが(笑)

でも、ほんまにポジティブなフィードバックが起こり始めたときに、アンケート入力してくれる学生さんも増えてきたり、入局してくれる人も一人二人増えてたり…そんな風にリアクションを返してくれているのを実感すると、やっぱり頑張らなきゃってなりました。やっぱり本を出せたのはすごく大きかったです。学生さんや研修医に教えていたことをとにかく全部書いたから、あとは「これ読んどいて」で済むわけですよ。ベストティーチャー賞でもらった賞金で、貸し出し用の自分の本を20冊ぐらい買ったりして。「これ僕に印税入ってくるけどいいんか」とか思いながらですけど(笑)回ってくる学生さんにそれを貸し出して、五人とか十人回ってくるグループに今日はここからここまで読んどいてって伝えるんです。そしたらなんかねえ、めっちゃ回りだしたんですよ。 それですごく楽になった。 学生さんも「よく分かった」「おもしろい」と言ってくれるようになりました。

 

と:へーそうだったんですね。でも、本を渡してあとはガンバって!ではなくて、そこで省けたものがあるからこそ残った時間で他の関わりをするんですよね。

 

長:そうなんです。そうなんです。同じことを繰り返し言う時間がなくなったんですよ。それでめっちゃ楽になったんです。ほんなら、もうあとの時間は患者さんのところへ一緒に行って実際に考えてみようとか、この患者さんについての疑問を考えようってことに使えます。ホンマにすごく楽になったんですよ。そんな風にみんなやっていったらいいのになぁと思います。やっぱりもうね、毎回同じこと言うのはしんどいですよ。別に本は出さなくてもいいから、例えば動画撮ったりね。コアな部分は毎年毎年そんなにガラッと変わらないですから。だからそれで省略化をして、あとはもうアクティブにやったらいいんですよ。 上手くいきだすとね、教育それ自体がすごく面白くなってくるんですよね。

 

と:長尾先生はポジティブな変化があったから教育がどんどん面白くなったとして、もしそれがなかったらどうでしたか?

 

長:いやそうね。僕は本当にラッキーだったと思うんです。振り返れば、ポジティブフィードバックを受ける機会が僕はたぶんそれなりに早かったという巡り合わせはありますね。その当時はすごく苦しかったんですけど、救急の教授が教えてくれたおかげで、学生さんからの評価を知ることができたのが大きかった。逆に言うと、今後はそういったポジティブフィードバックを僕が若い教員の皆さんに伝える役割ができたらいいかなと思っています。

 

長:教育への苦手意識を和らげるためにも、教員は教え方を学ぶ必要があるとは思います。大学教員は教育学を学ばずに教壇に立つわけですからね。それこそ各診療科の実働部隊の人たちに授業の作り方教室みたいなのやってもいいんですよ。

 

と:先生方であってもパワポや動画作りが苦手とか、そもそも自分が担当するレクチャーに自信がないとか、そういうハードルもやっぱりあるんですかね。

 

長:尋ねてみないとわかりませんけど、多少はあるんじゃないでしょうか。だから僕みたいなのが逐一「いいですね!」とコメントしてみたりとかどうでしょう。僕も褒められて育ったから。 学生さんもそうなんだけど、教員のきめ細かい教育も絶対必要なんですよ。

 

と:長尾先生に褒められたら自信持てるかもですね^^

 

長:そうだといいです(笑)

教育をハードル高く感じる要因には、やっぱり自信がないっていうのもそうだし、やり方をよく知らないっていうのもあるかもしれない。だからまずは教員のマインドを変える必要があって、カルチャーを変える必要があります。でもみんな忙しいから、そんな教育のことばっかり勉強している暇なんかないですよ。教育にチャレンジしやすい環境を育てようと本当に思うならば、大学の仕組みとしてFD(Faculty Development の略:教育内容・方法等をはじめとする研究や研修を大学全体として組織的に行うこと)の時間をつくって、まずやり方を知ってもらうだけでも違うし、ハンズオンで「一緒にちょっと作ってみましょう」とかやってもいいわけですよ。

それと、活用されるフィードバックの仕組みを作ることが大事ですね。授業評価をただ集めてそのまま送りつけるだけだと、もらった側もどうしていいか分からないし、ただイヤな気分になるだけなら逆効果です。活かされないアンケートならみんな書かなくなるし、そもそも良い評価も悪い評価も全部ゴチャ混ぜで来るんですよ。

 

と:むしろネガティブな意見こそきますよね。

 

長:そうなんですよ。だいたいポジティブなコメントはわざわざ書かないんですよね。みんなそう思ってるし、言わなくても分かるやろってなりますもんね。いちいち言うのも面倒くさいし。でも腹立ったことは言わねば気がすまない(笑)

 

と:確かに言いたくなります( 笑)

 

長:僕も実は授業評価を受けるときに、ちょっと操作というか、工夫としてやってたのは、「もし僕の授業がほかの授業よりも面白いと思って、もうちょっと増やしてほしいと思うんやったらアンケートにそう書いて」って言いました(笑)。オモロい授業をしている自信はあったし、こう言ったら書いてくれるんじゃないかと。

 

と:なるほど。

 

長:そしたらほんとにめっちゃ書いてくれて有難かったです(笑)やっぱりフィードバックをするにも何かインセンティブが必要で、要するに「皆さんの意見で変わりますよ」という期待がないとですよね。

 

と:でも自分が評価される立場だったら、ネガティブな意見ばかり気にしちゃいそうです(^o^;)

 

長:あーそうねぇ。それは全教員が同じくで、そういう自信を持てない部分があると思うんですよ。だからやっぱり、自分がやっている教育に関してポジティブな部分の手応えを感じてもらうのが大事じゃないかと思います。やってもやっても上手くいかない、と不安なままでやるよりも、「こうすれば上手くいくんだ」とまずは知ってもらう。そうしたら、「ちょっとやってみようかな」と少し前向きに思ってもらえるかなと思っていて。なので、とりあえず学生さんから意見を全部ガッサーと集めてね、その中でまずはポジティブなやつをバンバン教員へフィードバックしていくと。 ネガティブな指摘は一旦保留してね。まずは成功体験で土台をつくって、徐々にネガティブな指摘のある部分にも目を向ける余力を蓄えるんです。あとは評判がいい事例をみんなで共有して、それがちょっとでも頭の片隅に残って「今度の授業でこうしてみようかな」とか思ってもらえたら、それだけでも全然違うと思うんですよね。そうやってやっぱり教員側の意識改革をしていきたいです。教え方のコツはほんとに少しの工夫なんですよ。僕が最初に教え始めた時に学んだ教えるコツの一つは例え話を使うことで、もう一つは細分化といって大事なことを非常に細かく教える。例えば呼吸器だったら、一番最初の肺の構造と仕組みにすっごい時間かけるんです。せやから途中で時間がなくなるんですけど、それでいいんです(笑)。あとは学生さんが自分で勉強する。例え話と細分化、まずはその二つだけです。

 

と:なるほど~。でも一番のコツはなんだか違う気がします。レクチャーしてくれる先生自身が楽しそうなのが一番大事だと思います。

 

長:あー確かに、それは間違いないです。自分の知っているこの面白さを伝えたいマインドが一番のコツかもしれないですね。やっぱりね、商売人は自分の扱っている商品に絶対の自信を持たないといけない。「呼吸器のこんな話、絶対オモロいに決まってるんやから自信を持ってお勧めします!」みたいなね。 (ジャパネット長尾風?)

 

長:とりあえず僕は、自分が教育に関わって培ってきたテクニック的なところは全部開示してます。あと大事なのはもう一つ、さっき出てきたマインドの部分ですよね。やっぱり先生方には自分の専門に愛を持って欲しいです。 自分の専門の面白さをどうやってできるだけ多くの人にわかってもらえるか。この感動を分かち合えるか?というね。他から評判が良くなくても、自分は「これは絶対面白いはずなんだ」って思える愛がまず大事です。

 

と:自分だけが推してても、周りのリアクション悪かったら凹みませんか?

 

長:リアクションということに関して言うと、伝え方とかスキル面の工夫もあります。確かにスベるのは怖いですし、リアクションがなかったら物凄く寂しい気持ちになるので。今ならそういうのはできるだけ動画授業にして、こっちが知らぬ間に見て勉強してもらうのも手ですかね。まあほんとのことを言うと、別に授業を聞かなくてもいいんですよ。変な話ね。おさえるべき内容が理解できるなら、それでいいんです。まあ全部自分で勉強するのは大変だし、大学としても最低限のアウトカムは保証はしないといけないから、まったく授業せずっていうのはできないんですけど。でも必ずしも授業で勉強しなくたって、最低限の知識を獲得できるなら、それが本来の目的です。

 

と:長尾先生は良い授業のために沢山時間をかけているけれど、それでも自分の授業を聞かなくても良い、と?

 

長:そうです。僕の授業を必ず聞いて、この教科書を読まないと学習目標が達成できない、そんなことは全然ないわけですね。今はもういろんな教材があって、やり方は何だっていいんです。そうしたら、例えば映像授業にしたおかげで空いた時間をプラスαの部分に活用できるでしょう。グループワークやら確認の小テストでもいいんですよ。小テストをやってみんなで答え合わせのやり取りをしたりね。まあ教員としての義務があるわけですから何も授業しないという訳にはいきません。ただ、どちらかというと、道具を使ってできるところは節約して、テスト問題をつくるのに時間を費やして欲しいですね。テスト問題の質を良くすると絶対勉強します。

 

と:私が今まで受講した中でも、○○という授業でそういう仕組みがありました。勉強するのがかなり大変でしたけど、本当に身になりました。

 

長:そうでしょう。過去問の丸暗記では解けない、本質的に良いテスト問題を作ったら勉強せざるを得ない。良質なテスト問題が示すレベルに到達するために、みんな自分で工夫して勉強するんですよ。でもまあ実際は嫌々テスト問題を作っているケースが多いと思います。今言ったのは理想ですよ。ですが、まずは動画でもテキストでもいいから何かしらの基本的な理解を助けるコンテンツを使って省力化する方向性は大事です。せっかくコロナでリモートになったのに、オンラインよりこれまでのやり方、対面のほうが良いと決めつけてしまうのは勿体ない。コンテンツが活用できるのであれば、もうそのまま置いときゃいいのにと思う。なんで対面に戻すねん(笑)。

 

と:しかも対面授業自体がコロナ以前に比べて格段に良いかと言われたらそういう訳でもない…

 

長:正直ですね(笑)

 

と:すみません^^;でも、コアカリキュラムに入っている内容を授業で網羅してもらっているというのは分かるのですが、一気に聞いても全部頭に入らなくて…。結局やることが多すぎて何が何だか分からないまま、ザザーッと過ぎ去ってしまいました。きっと後から大事だと気づいて後悔するし、絶対授業でもやっているはずなんですけど…

 

 

長:だから逆に言うとコンテンツがあるといい、いつでも見ることができる。後で見ようと思って「あれ?これなんのことやったっけ」って思ったら、「あ、このことか」ってアクセスがいつでも出来るじゃないですか。これがコンテンツの強み。一回きりの授業やったら、もう講義室で言ったことはすぐに消えてしまうでしょう。

 

と:一回の授業だけで全部覚えるのは無理ですね…。もちろん授業だけでなくて、自主学習が大事なのは重々承知なのですが、授業コマや課題などやることが多すぎて時間も足りずキャパオーバーでした。

 

長:そうなんですよ。だからライブ授業の時はやっぱりそっち方面に舵を切って、とにかくおもろい!で行くんだけど、コンテンツは別にそうする必要もないんですよ。必要があったら後で見たらいいし、で実はそういうことだったのかっていうことが後で理解してわかるかもしれないからね。 上手く取り入れれば、コンテンツ作りはいいことずくめなんですよ。

 

と:確かに、コンテンツ作りを楽しめればですね。

 

長:そこはちょっと人によってハードルが高いといわれる側面はおそらくありますね。大学教員は臨床もやらなあかんし教育も研究もやらなあかんですが、それぞれ得意不得意もあります。僕は研究苦手なんですよ(笑)

 

と:え、そうなんですか笑

 

長:これはもうね、いろいろなお考えはあると思うけれど、僕はやっぱり適材適所がいいと思います。何でもかんでも全員に全部やれっていうよりも、「こいつオモロいから教育やらせてみるか」とか、それぞれの先生の特性に合わせてみてもいいんじゃないかな。

 

と:バランスの取れた人材が求められがちなんですかね。

 

長:教育する人ばっかりになって他が疎かになりすぎてしまうと、それはそれで大学として困ることも出てくるので、理想通りにいかないっていうのはわかるんですけど。でも、やっぱり得意なことや好きなことをやっている方が人間はイキイキするんだろうなーっていうのは思うんですよね。

 

と:キャリアと言う意味では、やっぱり教育への貢献よりも臨床と研究が優先されがちなのですか?

 

長:キャリアの話で言うと教育ってすごく無駄で、教育を一生懸命やっても評価は上がらないのが大学の大きな矛盾ですよね。結局教育に時間を割くためには、先生方がボランティアで自分の時間を使っているわけです。

 

と:学生からしたら、先生が忙しいなかでも時間をとってもらえるのは有難いですね。直接教わるのはすごく勉強になります。

 

長:教育の難しさはキャリアの大した足しにならないところと、もう一つはアウトカムが現在進行形で見えないところですね。今やっている教育が一体何のためになっているのかすぐには分からない。僕自身はその部分においてポジティブなフィードバックをもらえたから乗り越えられたんですけど、それがなかったら辛いというのはすごく分かります。なので、自分が教えたことで学生さんの表情がちょっとでも変わるとかね、興味が向くとか、そういう手応えのある体験をして欲しいんですね。

 

と:学ぶ側としても本人が大切さに気づけない難しさがありますね。やってる時は「これ、何の役に立つんだろう」って思っていても、後から振り返って気づかされて有難く思ったり。

 

長:教育って、学ぶべき時に「今、これを学ぶべきや」ってわからへんのですよね。あとで効いてくることも多いし。何十年も経ってから、指導医の先生が言っていたことの意味が痛感される、とかもあるでしょうし。だからこそ与える側の力量が要求される。それは間違いないです。啐啄同時(そったくどうじ)という言葉があって、ニワトリの卵は親鳥が外側からツンツンするのと、ひなが内側からツンツンするタイミングが合わないと割れないんですよ。ニワトリの卵だけじゃなくて、例えはなんでもいいんですけど、要するにレセプターが受け入れ準備をしているときに「ふりかけ」ないとつかない。どれだけいいものを「ふりかけ」てもです。でも、そのレセプターが開く瞬間というのは必ずあって、その時に「ふりかけ」ないといけないっていう難しさはあります。

 

と:今日お伺いした話では、長尾先生にとって苦しかった時にもらえたポジティブなフィードバックが大事だったからこそ、その役割を今度は自分がやりたいっていう部分が一番印象的でした。

 

長:そうですね~。前職ではまずアンケートをフィードバックしようと思って、それを提案したり実行したりしてたんですけど、僕自身も自分のやりたいことの繋がりに最近気づきました。

 

長:長尾先生は授業アンケートやフィードバックを重視してるなとは思っていたのですが、今日はそこが本当に腑に落ちました。

 

長:たぶんね、それ自分でも言語化できてなかったんですよ。ぼんやりとしかわかってなくて。だから最近ようやく気づきました。キーワードとしては選択と集中っていうことですかね。逆に言うとそもそも僕なんてね、なんの取り柄もなくて。

 

と:はい。あ、「はい」って頷いちゃいました笑

 

長:笑、そんな頭も良くないし、本もあまり読まず勉強しなかったような者がなんで本を書いて有名にしてもらえたかというと、それはもうひたすら全集中したからだと思います。本当におかげさまなんですよ。教育に全集中できる環境をもらえて本当に有難かった。だから同時に、みんなそれぞれ全集中したいポイントが違うから、誰もが同じように教育だけをできないということはわかる。勿論「アンタだからそうできたんやろ」って言われたら確かに一理あるかもしれないけれど、今まで教育に集中してこれだけやってきたから分かったコツがあります。「こうすればきっと学生さんがこっち向いてくれますよ」とか「ここウケるよ」とか、そういった少しの工夫を伝えられたらいいなって。せっかく皆さんがそれぞれの得意分野で頑張っておられることがあるから、その手助けをしたいんです。

 

と:全集中の手助けをしたい、と。_φ(・_・フムフム

 

長:そうです、きっと皆さんそれぞれ自分の分野はオタクみたいなもんですから。オタクが一番パワーを発揮するときは全集中できている時でしょう。だから、自分のやりたいことに全集中できる環境がある上で、教育に関わるときにはそれに集中できる状況でやってほしいです。全員が教育だけに多くのエフォートは割けませんから、そこは教育オタクを活用して楽をしてもいいと思うんです。例えば、「オンライン授業の準備が必要なら動画作るのは手伝いますよ」「アクティブラーニングをしたいけれど、どんな工夫がいいだろうか」とか。余裕もなくて上手くいかないまま、教育が嫌いになるのは勿体ない。皆さん、本当にいいものをお持ちだから。「ここのワンポイントでひょっとしたら変わるかも」みたいな、そういうヒントはなんぼでもあります。それを共有していけると学生さんと仲良くなるんちゃうかなと思うんですよね。この島根大学医学部のなかで、そういったことに自分の存在を使ってもらえたら、僕はすごくwin-winです。せっかく頑張っていてもネガティブになってしまっているところで、ポジティブなフィードバックや工夫のコツを伝えられると、いい方向に回り出すような気もするんですね。

 

と:ありがとうございます。先生、この記事のタイトル決まりました。『オタクは仲間を増やしたい』です。

 

長:おー。たしかに僕はやっぱり仲間を増やしたいんですよね。僕自身が面白いと感じている教育を、面白いと思ってくれる仲間を増やせたら嬉しい。なので、それを今後もやっていきたいかなって思うところはありますよ。 いや、僕今日はええ話しましたね(笑)

 

と:ありがとうございました!長尾先生の根っこの部分が聞けてすごく良かったです。

 

長:今日は今まであんまり言語化できてなかったことがいろいろ話せましたね。やっぱり一緒に話をするのはいいですね。

 

と:本当ですね^^

 

(2023年2月、とある教室にてインタビュー)